
knockuru vol.1|久留米大学 基盤教育研究センター教授 中村寛樹さんインタビュー
2024.7.31
レポート
「久留米出身ですが、いつも海外にいるような気持ちでこの地に立っています。」
久留米大学 御井キャンパス 10階研究室前。
コンコン。「失礼します」

作業の手を止め、快く出迎えてくれたのは、久留米大学 基盤教育研究センター教授の中村寛樹さん。
現在は主に環境問題などの社会・地域課題を起業家精神(アントレプレナーシップ)や市民参画(シティズンシップ)の視点でアプローチし、持続可能な社会を形成していくための研究を行っている。
・アントレプレナーシップ(entrepreneurship)…
「目指すべき方向性とビジョンを持って、自らの創意工夫や新しい価値創造により、新規事業創出や組織、社会変革に挑戦する精神性」を意味する。・シティズンシップ(citizenship)…
「市民性」と訳され、「ある共同体(コミュニティ)に属する人々が、その社会でいかに振る舞うか」といった概念を意味する。
START‐Kのプログラムが走り出した昨年度(R5年)に実施したSATRT‐Kデモデイ(コンテスト)でも審査員を務めていただき、久留米エリアでの起業・創業に関する支援者の一人として欠かせない存在となっている。
今ほど一般的ではなかった「アントレプレナーシップ」という概念。
どのようにして出会い、推進してきたのか中村教授の「これまで」に迫る。

Q.これまでの経歴を教えていただけますか?
「実はもともとの専門は、発展途上国の都市計画・地域計画を考える都市工学系です。
社会インフラの整備から始まり、現地の人にインフラを使ってもらい、どうやってそこから生活のための新しい事業創出に繋げていくか。工学だけでなく、地域文化や政治経済、宗教、ビジネスなどの社会科学も学んできました。」
インフラに関心を持ったのは幼少期。中村教授の祖母が、江戸時代に筑後川灌漑工事に尽力した『五庄屋』の子孫であると知り、土木やインフラといったものに興味を抱いたという。
また、発展途上国に関心を持ったのは中学校時代。南アフリカへ渡航し、貧困や死と隣り合わせの世界の現状を目の当たりにした原体験がきっかけとなっている。
大学院卒業後は、一度、旧経済産業省所管のシンクタンクに就職し、主にエネルギー・環境分野で原子力発電の地域立地に関する業務などの担当をしていた。
その間、新規事業計画のプロポーザル作成などの仕事も任されたという。
その後、所属部署は廃部になったが、そこでの業務をきっかけに、博士課程に進みたいと思うようになった。全世界的なエネルギー・環境問題などの社会課題と日本の地域との関係や取り組みについて、自分自身の研究テーマを見つけ、自ら研究できる能力を身に着けるためだ。またグラミン銀行創設者で2006年ノーベル平和賞を受賞した経済学者ムハマド・ユヌス博士が提唱する、ビジネスを通して社会問題を解決するソー『シャル・ビジネス』に感銘を受け、実務と学術を同時に深く探求したいという思いもあった。
博士課程の研究テーマを探す中で学生時代に訪れたオーストリア・ウィーンで見つけた『自転車シェア』を思い出した。
「自転車は身近で、学生時代も久留米でもよく使っていました。でも、海外で見つけた、自転車を地域で共有する『シェア』というアイデアは新鮮で関心を持ちました。
まだ当時は、自転車シェアは国内外で全く認知されていない時代。ときでした。また、オランダで始まったといわれる自転車シェアはそもそも廃棄自転車のリサイクルが目的とされていました。しかし、それだけでなく、廃棄自転車を再整備し、色を統一的に塗り地域シェアすることで新しい価値を創造したり、環境負荷や渋滞の原因となる過度な自動車依存からの脱却、人々の健康増進、事業運営のための新しい技術やビジネスモデルの模索など、幅広い視点から取り組まれていました。さらに、私にとっては、インフラ整備という意味でも非常に興味があるトピックでした。」
その後、自転車シェアは、国内問わず急速に拡大し、中国などでも多くのベンチャー企業が自転車シェア事業に参入し、スタートアップやベンチャー業界でも話題となります。
さらに、東京の私立大学に勤めていた時のこと、
「大多数の学生が『就職』という道を選択する中、一部『起業』に関心を持つ学生がいました。国の施策でも起業・ベンチャー支援の強化が積極的にすすめられるようになっていた中で、ベンチャー企業や起業に関心のある学生が少しずつ出てきました。ただし、自分で起業したいという学生は少数で、新しいことを生み出す起業家のことを知りたい、海外の状況を知りたいという学生が多かったと思います。むしろ、起業意思の有無というよりも、そういう視点に気が付く、関心を持つということが大事と思うようになりました。」
この経験から『アントレプレナーシップ教育』の重要性を強く感じるようになったという。
今、再びこの地で挑戦することを決めたのも、地方都市ならではの課題や魅力を見つけ、その課題をいかに克服するか、魅力をいかに生かすかという視点で、新しい価値創造や社会変革ができるのではないか、と改めて地方にポテンシャルたからです。たまたまご縁を頂いて、出身地である久留米に戻ってきました。
これまでを振り返りながら原体験を語る中村教授の表情には時たま笑顔が漏れ、様々な経験を思い出し懐かしむ様子が伝わってくる。

「これまで」どのようにしてその一歩を選択し、踏み出してきたのか。
ここからは、「START-K」の頭文字になぞった形で質問し、中村教授のパーソナリティや「これから」についてさらに深掘っていく。
Q.これまの経歴をお伺いする中で常に新しい環境に身を置き「挑戦」してきたように感じますが、「挑戦」することを決めたきっかけとなった出来事はありますか?
「大学生の時、授業の一環で約一カ月フィリピンに行きました。その時にデ・ラサール大学に通うフィリピン人の学生達と仲良くなりました。そのうちの一人がすごく日本が好きで、日本語でも話しかけてきてくれました。なんでそんなに日本が好きなのかと聞くと、親が東京のフィリピンパブで働いて仕送りをしてくれているのだそうです。日本のことについていろいろと話をしてくれたそうです。日本でいうと東大に行くような子供の親が、子供を大学に行かせるために海外で働いて仕送りをする。親の覚悟も含め、そういう環境にいるからこそ真剣に大学で勉強して、自分の将来も考えるんだろうなって実感しました。それもあって、「自分はなんて恵まれている環境で何も考えずに生きているのだろう」と、自分自身も将来を真剣に考え始めました。現状に不平・不満を言うだけでなく、いろいろと挑戦しよう、環境を自ら変えていこう、変わっていこうと思いました。」

Q.挑戦のきっかけをくれたフィリピン人学生との出会いもあり、幼い頃からから「海外」というキーワードは欠かせないポイントのように感じましたが、なぜ海外をフィールドに選ばなかったのでしょうか?
「長期の海外留学の経験こそないですが、海外にはよく調査・研究などで行っていました。むしろ研究としては、海外の方が多いくらいで。
ただ、大学教員として色々な地域にかかわることが多くなっていくうちに自然と目線は日本の地域に向いていきました。博士論文で自転車シェアの研究をしていた時は、北九州をフィールドに、北九州にあるNPOと連携して研究を実施しました。
でも、実は、私的にはあんまり海外も日本の地域も変わらないんですよ。北九州で数カ月滞在して研究していた時も海外留学の気分でした。
あまり一カ所に長く留まったことがないということもありますが、久留米でもどの地域でもいつも海外にいるような新鮮な気持ちでいます。久しぶりの久留米も知らなかったことや場所が多いなぁと実感しています。それこそ、海外に行ってなかったら地域をそんな風に見れていなかったかもしれないですが。」
Q.コンフォートゾーンをはじめて出た時、どういった気持ちでしたか?
「ちょっとでも挑戦したいな、環境変えたいなって思ったら、まずは変えてみよう、じぶんから変わっていこうと決めていました。なので、職場も色々と変わり、あまりよくないのですが。ただ、環境が変わる時は、偏見を持たず、いつも気持ちを入れ直して緊張感をもって立っています。そこは良い面かもしれません。変えること、変わることはとても勇気とエネルギーがいります。」
Q.これまで色んな人に出会ってきていると思いますが、人生のロールモデルとしている人はいますか?
「素晴らしい恩師や友人に出会いましたが、特定のこの人!っていうのはいません。ただ、私の場合、研究分野もいわゆる学際的で様々な分野にまたがっていますので、その分野ごとにこういう人になりたいというイメージは持つようにしています。特定の分野のロールモデルのようにはなれなくても、色々な分野で自分なりの努力をし、それを掛け合わせれば、結果的に、誰かと同じ自分ではなく、オリジナルな自分になっている。そういう風に考えてきました。」
Q.現在、熱中(趣味)している事はなんですか?
「趣味は、サッカーとあとは音楽です。音楽は、自分で楽器を弾くのも好きですし、作曲もしたりします。それこそ、趣味って研究とすごく似ていて、主体的にやることに楽しみがあります。料理でも食べるのはすごく簡単だけど、それを自分で作ろうとすると難しさが全然違うんですよね。あと、頭でわかっていても手足を動かすと全然違っていたりもします。感覚でやることも大事だけどやっぱり理論の勉強も大事ということもあります。自分でやってみると難しさがわかったり、発見があったり、既存のものの見方も、すごく変わるので、楽しいです。」
Q.ここぞという勝負時に必ずやっているルーティン的なものはありますか?
「特にないですが、深呼吸など呼吸と姿勢は意識しています。息を大きく吸って、ゆっくり吐く。どちらかというと緊張しやすいし、油断するとすぐに怠けたりするタイプなので、そういう切り替えが必要なタイミングで深呼吸をしたり姿勢を正してから取り掛かるようにしています。メリハリや区切りをつけることを意識しています。」
Q.最後に、今後久留米でどういった挑戦をしていこうと考えていますか?
「自分で何かやるというよりは、特に若い人、これからの世代の人に「久留米にずっと住みたいな」とか、「久留米だったら何か色んなこと挑戦してもみんな応援してくれるな」とか、そんな雰囲気になってほしいというのがあります。なので、活動している方同士を繋げたり、紹介したりという役を担っていきたいです。こういう素敵な人たちがいっぱいいるよ~っていうのを言いたいですね。それこそ、『START‐K』があるよ、みたいなのも。」

アントレプレナーシップとは、いわゆる自ら望む方向に向かって、枠を超え行動していく姿勢について表しているように感じた。自分が少しでも望むなら、そこが未知の領域であっても進む。挑戦してみる。
その一歩が新たな価値を生んでくれる。それを身をもって教えていただいた1時間でした。
ありがとうございました。
(2024/7/4取材)

►中村教授の久留米行きつけ日記
くるめりあ六ツ門(福岡県久留米市六ツ門町3番11号)
久留米市六ツ門町にある商業施設です。100円ショップやドラッグストアなどのお店があるだけでなく、久留米市立図書館や久留米市児童センターもあります。久留米市市民活動サポートセンター「みんくる」の事務所もあり、仕事でもよく訪れます。インド・ネパール料理を食べたり、フィリピンのお菓子を買ったりすることもできます。

